お酒のアルコール度数を「におい」で判定
2017.11.10
物質・材料研究機構(NIMS:ニムス)は6月20日、柴弘太氏(NIMS国際ナノアーキテクトニクス研究拠点ナノメカニカルセンサグループ研究員)、吉川元起氏(同グループリーダー)、田村亮氏(同量子物性シミュレーショングループ研究員)、今村岳氏(NIMS若手国際研究センター研究員)らの研究グループが、「超高感度小型センサ素子(MSS)」、「機能性感応材料」、「機械学習」を組み合わせることによって、お酒のにおいからアルコール度数を高精度に推定するセンサーの開発に成功したことを発表した。
同研究成果は、6月16日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載されている。
お酒の「におい」に反応する高感度センサー
「におい」は一般的に、数百~数千におよぶ化合物から構成される複雑な混合気体であるとされる。
従来では、この「におい」から特定情報(構成成分・濃度など)を定量的に抽出する方法としては、ガスクロマトグラフィなどの比較的大規模な装置が必要で、個々のガス成分を分離することで解析する方法が取られていた。
今回、同研究グループは、「MSS」、「機能性感応材料」、「機械学習」のそれぞれの技術を融合して、「におい」の特定情報を数値化する手法の開発を行い、その一つとして、さまざまなお酒のにおいから、それぞれの特定情報となる「アルコール度数」を高精度で推定する小型の高感度センサーを開発した。
においの「電気信号パターン」からアルコール度数を推定
まず、MSSの表面に「におい」分子を吸着するさまざまな材料を塗布し、「ビール」・「ウォッカ」などのお酒のにおいを吹きかけることで、それぞれのお酒に特有の「電気信号パターン」を記録。
同じアルコール度数でも酒種ごとににおいの成分が異なるため、それぞれの酒のにおいに反応したときの「電気信号パターン」とアルコール度数を関連付けることによって、大量のデータをセットし、機械学習を用いて、においの「電気信号パターン」からアルコール度数を推定する予測モデルを構築した。
また、『予測精度』を改善するために、機械学習で得られた情報を逆算することで、よりお酒のにおいに適した感応材料の選定、抽出する電気信号パターンの特徴量の最適化も行った。
果物の成熟度・がんの進行度などの分野にも応用
同手法によって、赤ワイン、芋焼酎、ウィスキーなど、種類に関係なく、学習に使用していないお酒のアルコール度数でも高精度で推定することができた。
また、アルコール度数だけでなく、果物の成熟度やがんの進行度などさまざまな分野でにおいから簡単かつ高精度に特定情報を抽出できるセンサーなどへ応用も可能性があるという、
同研究グループは今後は、食品・農産物の品質管理、健康チェック、環境モニタリングなど一般社会・産業界への展開を推進していきたいとしている。
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